強気で完璧なお嬢様は執事の前でだけヘタレ



「あのとき」


 彼が言う。


「血まみれで、何もできなくて」

「……」

「それでも瞳は、俺を怖がらなかった」


 月明かりの中で、藤太の声が静かに響く。


「お嬢様なのに、俺なんかのために手当てしてくれた」

「……当然ですわ」

「それからずっと」


 藤太が笑う。


「お前が無理してるのが気になった」

「失礼ですわね」

「放っておけなかった」

「……」

「いつの間にか」


 藤太の目が、わたくしを見つめる。


「側にいるのが当たり前になってた」


 胸が苦しくなるほど、嬉しかった。


「だから」


 藤太がわたくしの手を取る。


「俺も、ずっと前から好きだった」


 その言葉を、わたくしは何度も心の中で繰り返した。

 ずっと、わたくしが一人で抱えていたと思っていた気持ちを、いつの間にか彼も同じように抱えていた。

 それが嬉しくて。

 涙が一粒、頬を伝った。


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