強気で完璧なお嬢様は執事の前でだけヘタレ



 また、胸が変なふうに鳴る。

 藤太と出会ってから調子が狂いっぱなしだ。


「まず見習いから成長なさい」

「すぐ一人前になる」

「のんびり待ってますね」

「一人前になったら褒めてよ」

「考えておきます」

「厳しー」

「事実を述べたまでですわ」

「はいはい」


 藤太が笑いかける。

 その笑顔を見て、不思議なくらい肩の力が抜けた。

 久保寺家では、わたくしはいつも“お嬢様”だった。

 誰もが私に頭を下げる。

 失礼のないように丁寧な言葉を使う。

 わたくしの機嫌を損ねないように振る舞う。

 それが当たり前だったし、それに見合うような人間であろうと努力してきた。


 ──でも、藤太だけは違う。


 “わたくし”を見ている。

 “久保寺家のお嬢様”ではなく、ただの“瞳”として。


「……藤太」

「何?」

「わたくしのこと、ちゃんと主人だと思ってませんわね?」


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