強気で完璧なお嬢様は執事の前でだけヘタレ
「……怖くなんてありませんわ」
自分の震える声が、本当に嫌になる。
「わたくしは、久保寺瞳ですもの」
そうだ。こんなことで声や指を震わせている場合じゃない。
古びた扉に手をかけた。体温の全てを奪うような冷たさに、思わず手を離しそうになる。
雨で濡れた取っ手は、少し動かしづらそうだ。
「……誰かいるなら、返事をしてください」
返事はない。わたくしは深呼吸した。
「…………失礼します」
ギィィ……といつか見たホラー映画のワンシーンのような音がして、扉が開く。
そして。
「!」
──息が止まるかと思った。
薄暗くてほこりっぽい小屋の中で、床に誰かが倒れていた。
泥だらけの学ラン、濡れたダークブラウンの短髪。
痛々しく腫れた頬、口の端には血の滲んだ唇、手の甲には赤い擦り傷。
「……っ」
一瞬、身体が凍りついて何も考えられなかった。