強気で完璧なお嬢様は執事の前でだけヘタレ



「そ、それは……」


 言えるわけがない。泣いていました、なんて。

 わたくしは慌てて顔を背けた。


「月を……見ていただけですわ」

「……そっか」


 絶対に信じていない。

 けれど、藤太はそれ以上聞かなかった。

 わたくしの隣に少しだけ距離を空けて座る。


「……それより、どうでしたの? 警察の対応は」


 あからさまに話を逸らす。

 藤太もそれはわかっていただろうに、わたくしの質問に真摯に答えてくれた。

 そうして今に至る。


「……綺麗だな」


 黙り込んでしまったわたくしに何を思ったのか、藤太は月を見上げてそう言った。


「ええ」


 しばらく二人で月を見る。

 不思議だった。

 さっきまであんなに苦しかったのに。

 藤太が隣にいるだけで、少しだけ呼吸が楽になる。

 しばらくして、ふわり、と何かが肩にかかった。


「……?」


 見ると、藤太の上着だった。


「寒いだろ」




< 70 / 182 >

この作品をシェア

pagetop