強気で完璧なお嬢様は執事の前でだけヘタレ



 その一言だけで、胸が熱くなった。


「では、また来ます」

「うん」


 美緒や子どもたちに手を振られ、振り返しながらゆったりとみそら園の門をくぐる。

 隣には藤太。


「……美緒と他に何話してたの?」

「秘密です」

「えー」

「女性同士の話です」

「俺には聞かせられない?」

「ええ」

「気になる」

「気にしなくて結構です」


 藤太が不満そうに唇を尖らせる。

 そんな彼を見て、わたくしは少し笑った。

 でも頭の中には、美緒の言葉が残っていた。

 ──藤太が誰を見てるか、わかるから。

 わたくしは、まだわからない。

 自分の気持ちも、藤太の気持ちも。

 ただ、帰り道で隣を歩く藤太の横顔を、いつもより少しだけ意識してしまった。

 それだけは、認めざるを得なかった。

 けれど今は、固まりそうなアイデアばかりに気を取られ、それ以上深く考えることはなかった。


< 88 / 182 >

この作品をシェア

pagetop