強気で完璧なお嬢様は執事の前でだけヘタレ



「彼は藤太という名前です」


 自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。


「施設で暮らしています」

「やっぱり……」

「それが何か?」

「え?」

「施設で暮らしていることが、何か問題なのですか?」


 教室が静かになった。

 わたくしは薄く微笑む。


「藤太は久保寺家で働いています。それ以上でも、それ以下でもありません」


 そう言って、お弁当に視線を戻す。

 いつものわたくし。

 何も動揺していないと、そう見えるように。


「……瞳」


 香織が心配そうに顔を近づける。


「大丈夫?」

「ええ」

「本当に?」

「気にしていませんわ」


 そう答えながら、わたくしは膝の上でそっと手を握った。

 噂なんて、気にしなければいい。

 わたくしは久保寺家の娘。

 藤太は使用人で、協力者。

 ただそれだけのこと。

 ──その日の夕方までは、そう思っていた。


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