この結婚には愛しかない
チェックインを済ませ部屋に入り、あまりの蒸し暑さにワイシャツの腕をまくる。

シンガポールではスーツの上着を着ている人はほぼいない。日本人同士で会う時くらいだ。

シンガポールはキャッシュレス決済が広く受け入れられているため、スマホとルームキーだけ持ってロビーに降りた。


「お待たせ」

「いいお店を知ってるからそこに行きましょ」


想像通り、コーヒーショップなんかに行く気がない彼女に連れて行かれたのはシーフードレストランだった。平日なのに混み合っていて、人気店なんだろう。

彼女は席に着くなり「タイガービール2本」とオーダーした。


「(強引だな)」

「伊織シーフードは好きかしら?ここはスパイシーなカニが美味しいのよ」

「へえ、俺は牡蠣が好きだな」

「ノー!私は苦手だわ」


しかめっ面をした彼女が、店員に何品かオーダーする間、まだ1年も経っていない、あの出向先での牡蠣イベントに思いを馳せる。


「あら、何がおかしいの?」

「なんでもないよ」

「伊織!乾杯しましょ」

「「乾杯(cheers)」」


運ばれてきたばかりの小ぶりな瓶ビールで乾杯した。
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