この結婚には愛しかない

「勧誘自体は嬉しいけど、今の仕事好きだから」

「あーあ、振られたか」

そう言って伊織さんが私の肩に頭を置いた。その仕草がかわいくてたまらない。


「伊織さんまた振られちゃいましたね。あ、赤澤さんは違った。勧誘してないんでしたよね」

ワイワイと盛り上がる中、伊織さんにだけ聞こえるボリュームで言うと、伊織さんが頭を持ち上げ私に目をやる。


「でも莉央は俺を愛してるでしょ?」

甘い声。甘い表情。

恥ずかしくて目を逸らしたくなるのを我慢して頷いた。


「かわいいね。今すぐキスしていい?」

あながち冗談ではなさそうで、慌てて首を左右に振る。でも。


「2人きりになったらお願いします」

「そんなこと言われたら完全にキスだけじゃ終われないよね」

「...キスだけじゃいやです」

「まいったな。今すぐ寝室行こう」

言うやいなや、伊織さんが私の手を掴んで立ち上がる。


「伊織さんっ!?」

「ははっ。飲み物取りに行くだけだよ。期待しちゃったね」

「ちが、違います!」


手を繋いだままキッチンに向かう背中から。

「経営会議で場をピリつかせた専務と同一人物には見えないっすよ!」


長谷川くんの声が飛んできた。
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