この結婚には愛しかない
「どうか頭をあげてください。頭を下げるのはこっちの方です。さあ飲みますかな」

「ええ飲みましょう」


店員を呼び、ビールをオーダーした社長は饒舌になった。

社長は肩の荷がおりたと安堵しているのだろう。ただ、俺が経営に入っても、数年は社長を続けてもらわなければ困る。

俺は何年かは自由に動き回る必要がある。


まだぼんやりとしか描いていなかった入社後について、本腰を入れて計画を立てよう。

ただ、ホールディングスの今後がどうなるか、まだ分からない。何通りものシュミレーションを想定し、それぞれのプランを立てなければならない。

ああ、ますます忙しくなるな。嬉しい悲鳴だ。


本当に良かった。こんなにすんなりことが進むとは。

ただの口約束にならないよう、これからは様子を見ながら、秘密裏に連絡を取り合うことにしよう。


「私の元部下たちはがんばっていますか?」

社長から彼女の仕事ぶりを聞こうなんて、期待はしていなかった。

恐らく社長が把握している事業戦略室の人間は、大森室長くらいだろう。

あの規模の会社のトップなら、そのくらいで当然だ。

「大森室長は流石ですよ。よく支えてくれています」

「そうですか。彼は真面目で仕事も丁寧。部下思いの素晴らしい人物です」


彼はキミを救えなかったこと、すごく悔やんでいたんだよ。

出向初日に、キミが前職を退職することになった経緯を話してくれた。

キミの履歴書を前に、直属の所属長にだけは知っておいて欲しいと。


こともあろうか、支店のトップの人物によるセクハラを発端としたパワハラ、自分も同じ目にあうことを恐れた同僚からの、手のひらを返した心ない仕打ち。
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