この結婚には愛しかない
「失礼いたします」

ドアを閉めてくださった神田専務を振り返ると、「小泉さん」と笑顔で私の名を口にしてくださって。


「ハグしていい?」

「(え?)」

「ハグは海外のポピュラーなコミュケーションだよ」


両手を広げる神田専務。もうこれは行くしかないと、近付き距離をゼロにした。

包みこむようにやさしく抱きしめられ、思わず私も両腕を回し抱きしめ返す。ほのかに香るウッディな香水の香りが鼻をかすめる。


神田専務の胸の位置ある私の顔の熱さや、大騒ぎしている胸の鼓動がバレませんように。


「ずっとお会いしたかったです。神田専務...違うかもですけど...おかえりなさい」

「ただいま」


そう言って、抱きしめる腕にぎゅ、と力が込められる。

海外では恋愛感情がなくてもハグは当たり前と、薄い知識はあるものの、ハグの文化に不慣れな私は、体を密着させた長いハグに、ただひたすらにドキドキする。


今日一日、これは夢じゃないかと何度疑ったか。

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