この結婚には愛しかない
「そんな泣きそうな顔しないで」

困ったように笑う神田さんの人差し指が、するりと頬を撫でる。


「ありがとう。でも...ごめん、入籍しなくていいとか契約だとか、ちょっとよく分からないな」

「私ができることは限られていると思いますが、少しでも神田さんのお役に立ちたくて...」

「うんそれは十分伝わったよ。ありがとう。でも俺が言いたいのは、小泉さんのその気持ちの根源を知りたいってこと」

「それは神田さんを、」

とその時、神田さんのスマホが鳴り、その後に続く1番伝えたい、1番大事な言葉を飲み込んだ。


スラックスのポケットから取り出した、着信を知らせ続けるスマホの画面に表示された【Michel】

はっと息を飲む。ミシェルさんだ...

「すみません、どうぞ電話にご対応ください。このお電話をお待ちだったんですよね?」

「うん、でも今は小泉さんと、」

「いいんです。長々とすみません。電話に出てください、私はこれで失礼します」

ソファーから立ち上がり、コーヒーカップの乗ったトレーを持ってドアに急ぐ。
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