この結婚には愛しかない
「小泉さんまだいたんですか?え、どうしたんですか?」
会社の玄関前で傘を広げていたら、長谷川くんがやってきた。涙で手元がよく見えず、傘がなかなか開かなかった。
「俺傘持ってきてないから入れてくださいよ」
涙に気付いてもそれ以上触れてこない長谷川くんが、私の手から取り上げた傘を簡単に開いてさし、濡れますよと私の肩を抱き寄せた。
広げた傘に、大粒の雨が打ちつける。
駅に向かいながら、スマホを取り出した長谷川くんが誰かに電話をかけ始めた。
「お疲れ様です、今大丈夫です?...今どこいます?近いっすね。すぐ来てください小泉さんがピンチです。...いや、聞いてないです。あー、ですです。多分そう。駅ですね、了解です。めっちゃ濡れてるんで早く、あ、切られた」
スマホをスラックスのポケットにしまった長谷川くんが、落ち着きました?と笑いかけてくれる。