はじめては誕生日のあと
 碧はうしろから私を抱きしめたまま、私の耳もとでそっとささやく。

「おまえいい匂いする」

 びくっと体が震えた。
 碧の唇が耳たぶにわずかに触れて、体がぞくぞくする。
 彼の吐息が、体温が、感触が、まるで私の体を支配しているみたい。

「やだ、ちょっと……」
「嫌なのか?」
「嫌っていうか、変なの……」

 こんな感覚、知らない。
 
「彼氏いたんだろ?」
「……いたけど、こーゆーこと、してない」
「キスはしたのに?」

 かああっと顔が熱くなった。
 キスはしたことあるなんて見栄はって言ったけど、観覧車のてっぺんで記念にしただけ。
 あれも、ほんの一瞬のことだった。
 お互いに恥ずかしくて観覧車が下に着くまで会話が途切れた思い出しかない。

「そ、そうやって、また私をからかってるんでしょ? そんなことで屈したりしないから」

 どうせまたお決まり文句の『墜ちただろ?』って言ってくるんだ。
 もう騙されないんだから。

「からかうつもりはない」
「えっ……?」
「だっておまえ、ほんとに綺麗だから。俺、やばいかも」
「な、何が……」

 顔を傾けて見あげると、碧の真剣な表情が飛び込んできた。
 
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