あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 ヘンリーにはその魔力すらなかった。彼女だけ、この家から解放されるのは許さない。
 ヘンリーは、死ぬまでこの家に縛られるというのに。
『お兄さまがそう言うのなら……』
 コリーンが不安気に顔を曇らせたところで、ヘンリーは明るく声をかける。
『今日は疲れただろう? お茶でも飲むかい? いい茶葉が入ったんだ』
 たったそれだけのことであるのに、彼女はぱっと笑顔になった。なんて単純で扱いやすい妹なのか。
『今日だって、本当はお兄さまにエスコートしてもらいたかったのに』
『そういうことを言うものではないよ? 父さんだって、今日という日を楽しみにしていたんだ。コリーンと一緒に踊るのをね』
 口ではそう言って宥めたが、あの父親は今日という日を『面倒だ』と思っていたにちがいない。だけど、デビュタントは義務のようなもの。今後、この世界でうまくやっていきたいなら、荒波を立てるような行動は慎みたい。
『そうなのかしら? そうは見えなかったけれども』
 コリーンにも感じる何かがあったようだ。でも、あの父親なら仕方ないだろう。
 彼女の前に白磁のカップを置く。
 白い湯気が二本、はかなげに昇っていく。
『いい香りね』
『ああ、友人からもらったものだからね』
『お兄さま、お城でのお仕事は楽しい?』
 ヘンリーは、王城で文官として務めている。だが、これは珍しいことでもなんでもない。学院を卒業した者の大半は、王城で何かしらの仕事に携わっているのだ。
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