あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 屋敷の者には、相手はイングラム国のウリヤナ・カール子爵令嬢であると伝えている。聖女であったとは、いっさい口にしない。それでも、ウリヤナはレナートの相手として問題はないはず。
 問題があるとしたら、結婚した事実をあらゆる先に報告しなければならないことくらい。
『お披露目とか結婚式とか、どうなさる予定なのですか?』
 ロイが尋ねると、レナートは『問題ない』と答える。
『レナート様はそうおっしゃいますが、国王陛下が黙っているとは思えません』
『わかった。とりあえず黙らせてくる。明日、王都へと向かう。どちらにしろ、今回の件をいろいろと報告しなければならないからな』
『ウリヤナ様はどうされるのですか?』
『あの状態で連れていくわけにはいかないだろう。俺だけ行く。俺が留守の間、ウリヤナを頼む』
『え? 私がレナート様にお供しなくてもいいと?』
『他の者を連れていく』
 そう言っていた彼は、本当に他の従者を連れて王都へ行き、国王からたくさんの祝いの品をもらって帰ってきた。
『黙らせるのはできなかった。とにかく、うるさい男だ』
 だが、国王がああだこうだとうるさかったのは『文句』のためでなく『祝い』のためであったと、大量の品を見て理解した。
 とにかくこれで、レナートの結婚をうるさく文句を言う者はいないだろう。
 そもそも彼は、結婚とは縁のない男と言われ続けていた。
 理由は、彼の魔力が強すぎて、子を望めないからである。それでも血の繋がりよりも魔力の繋がりを重要視するこの国にとって、それらの解決策はいくつかあるのだが、レナート本人がそれを拒んでいた。
 となれば、やっぱり結婚に縁がない。
 それなのに、ふらっと隣国で結婚して帰ってきた。
 相手の女性をどうやってかどわかしてきたのだ、とまで言われる始末。
 それぐらい、彼の結婚はこの国にとって衝撃的な出来事であったのだ。
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