あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
『うっ……あっ……あぁああっ……』
 定期的にウリヤナの苦しそうな声が耳に届く。その声の間隔もどんどんと短くなっているように感じた。
 彼女は何時間も、こうやって苦しそうな声をあげているのだ。これがいつまで続くのか。さっぱりわからない。
 レナートはいてもたってもいられず、扉の前をぐるぐると歩き始めた。この場で自分にできるのは何もないとわかっているが、それでも気が気ではない。そのたびに髪が乱れ、顔を覆う。気になれば払いのける。それの繰り返しだった。
 しばらくそうやってうろうろとしていると、ウリヤナの声とは違う声が聞こえてきた。
『……んぎゃ……ん、ぎゃぁああ……』
 確かめなくてもわかる。これは赤ん坊の泣き声である。
「ウリヤナ」
 ばん、と乱暴に扉を開けて室内に入ると、産婆の腕の中にいる赤ん坊は、真っ赤な顔をして泣いていた。
「旦那様、男の子ですよ。おめでとうございます」
 まだ何も身に纏っていない赤ん坊の肌も真っ赤だった。すべてが真っ赤である。
 きっとこれが赤ん坊と呼ばれる由来なのだろう。そう思うと、顔が自然と綻んだ。胸の奥がぐっと締め付けられる。表現しがたい感情が、身体の底から湧き上がってくる。
「ウリヤナ……大丈夫か?」
 レナートはウリヤナの側に寄り添って、彼女の顔をのぞき込んだ。
「えぇ……なんとか、無事に産まれました。あなたのおかげね」
 白いおくるみに包まれた赤ん坊が、ウリヤナの隣にやってきた。あれほど大きな声で泣いていた赤ん坊は、今では両手をぎゅっと握りしめてすやすやと眠っている。
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