あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
9.彼女と別れた日
 カール子爵家は、昔から続く名門ではない。今の子爵の二代前が、商売で成功して財を築き、空いていた爵位と領地を授かったのだ。
 だからなのか、カール子爵は謙虚な男であった。
 誰よりも民のことを考え、そこに資金をつぎ込む。自分のことよりも他人に金を使うような人柄でもあった。
 それもあってか、民からの評判はよかった。どこの領地よりも、生活しやすい場所という声も聞こえている。
 しかし、そんなカール子爵にも欠点はある。それは、金勘定が苦手なこと。三代前は商人の出であったため、そういった苦労はなかったようだが、今のカール子爵は数字にめっぽう弱かった。
 帳簿の内容は確認するものの、それが合っているかどうかは、すべて家令に任せてある。カール子爵の仕事は、帳簿に押印するのみ。
 それが悪かったのだろう。
 ある日、娘のウリヤナから、帳簿の内容について指摘を受ける。
『お父様、こちら、数字が合っておりません。今、金庫にどれくらいの資産があるか、ご存知ですか?』
 その言葉で気づかされた。
 すべてを任せっきりで、その資産すら把握していなかったのだ。
 ウリヤナと共に帳簿を手にしながら、別邸の金庫を確認する。
 案の定、合っていなかった。
 それからすぐに帳簿を再確認し、別邸と本邸の資産を算出し直した。あっていなかったのは、別邸の金庫の資産だけ。だが、額が大きい。
 カール子爵は、眉間に深くしわを刻む。計算違いでゼロを一つ間違えたかとか、そういった問題ではなさそうだ。
 むしろ、誰かがここから盗んでいると考えるのが無難だった。
『お父様……。どうやらイーモンが……』
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