私を嫌っていた冷徹魔導士が魅了の魔法にかかった結果、なぜか私にだけ愛を囁く
 ――一体、この状況は何……!?

 ジュリア・フォン・ゼリスは自分を抱きしめる相手の顔を見る。
 青みがかった銀髪に、金色の瞳。
 精悍な顔立ちでありながら、社交場を賑わせるに相応しい色香が漂う。
 匂い立つような色香とは裏腹に、ジュリアを抱きしめる腕の力は男性らしく力強く、逃がそうとしない。

「……ジュリア、愛している」

 かすかな息遣いと共に、耳をかすめる声の柔らかさに鼓動がいたいくらい高鳴り、頬が火照る。
 普通の男性ならば、ジュリアに愛を囁く可能性もあるだろう。
 しかしギルフォード・フォン・クリシィールに関してそれはまかり間違ってもありえないと断言できてしまう。

 この帝国一の腕前を持つ魔導士は、ジュリアを嫌っている。
 幼馴染だったが、いつの頃からかすれ違うようになり、今となってはまともに話すこともなくなってしまった。
 それなのに。

「ジュリア」

 彼の手が顎にかかり、上向かされる。
 ジュリアより頭一つ分ほどさらに高い位置から見下ろすギルフォードの、満月のように美しい金色の双眸が妖しく輝く。こんな風に優しく見つめられることなどない。

「ぎ、ギル……」

 抗わなければ、唇を奪われる。
 頭では分かっているのに体が動かない。
 ギルフォードが覆い被さってくる。

 ――どうしてこんなことに……。

 戸惑う状況にもかかわらず、体が熱くなってしまう。
 ジュリアにできることは目を閉じることだけ。

 全てのできごとは十二時間前に遡る。
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