誰も知らないもうひとつのシンデレラストーリー
「てか、皇輝、あのアドリブなんなの!」

「あ、そうそう、やられたよなあ、俺びっくりしちゃって」


王様役と婚約者役だったクラスメイトがそんなことをぼやき、再びクラスは騒がしくなる。


「でも、良かったよね!?」

「ドラマにもない展開だけど、私こっちの方がすきだなって思っちゃった!」

「そのあとの妃花ちゃんも良かったよな」

「良く対応したよなー、俺も泣きそうになった」


好評だったらしい皇輝のアドリブ演技。

私は、劇だと忘れて大泣きしてしまったことを思い出し、穴があったら入りたい気持ちに襲われた。


「あー…てかあれ、アドリブじゃないんだよ」


皇輝はジュースを飲みながら、盛り上がるクラスにそう伝える。

私はその言葉に、どきりと心臓を震わせて、教卓にもたれるように立つ皇輝を見上げた。


「え?でも、私小説も読んだことあるけど、あんな描写なかったよ?」


文学部の女の子の呟きに、私も小説の文面を思い浮かべた。


「だーかーらー、書いてなくても分かんの!言ってんじゃん!俺、前世王子だって!」


にかっと笑う皇輝に、転校初日のようにクラスは一時沈黙し、その後笑いに包まれた。


「出たよそれ、はいはいお前は王子だよ」

「今回ばかりは最高のエンディングだったし、それでいいよ」

「ほんっと、それだけはずっと言ってるよね」


慣れたように、その冗談を受け流すクラスメイト。

皇輝は、特段それに対して不満もなさそうに、笑いながらストローを咥える。
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