The previous night of the world revolution8~F.D.~
「名付け親…?ルレイアが…?」

これには、ルルシーもびっくり。

「はい。是非お願いしたいんです」

…ふーん…。

「えっ…。名前って…今更?その子…まだ名無しなのか?」

驚いて、セトナさんの抱くガキを見るルルシー。

いえ、多分そっちじゃなくて…。

「その子じゃなくて、こっちの…下の子です」

ルアリスは、ベビーベッドで眠るチビガキを指差した。

そのチビガキを、セトナさんが抱き上げた。

抱き上げられても、呑気に眠ったままだ。

自分の話をされてるって、分かってないのだろうな。

「名前…まだ決まってないのか?」

「はい。そうなんです」

「え、でも…。その子…生まれたの、もう何ヶ月も前だよな?」

事情が分からないらしいルルシーは、大層困惑していた。

ルアリスのところに二人目が生まれたという連絡が届いて、既に数ヶ月経過している。

そのガキは、数ヶ月の間ずっと名無しだったということになる。

それは別に、虐待のつもりでも、名前が決まらなかったからでもない。

あー喋りたい。ルルシーに説明してあげたい。

今、ルルシーに黙ってろって言われたから喋れないんですよ。

「ルルシー、ルルシー」

俺は、小声でルルシーの肩をつついた。

「喋っても良いですか?」

「あ?あぁ…。仕方ない。くれぐれも失礼なことは言うなよ」

俺がいつ、誰に失礼なことを言ったって言うんです?

いつだって礼儀正しいじゃないですか。俺は。

「箱庭帝国では、子供が生まれて半年くらい経ってから、ようやく名前をつけるんですよ」

俺がそう説明すると、その通りと言わんばかりに、ルアリスが頷いた。

「えっ…。何で?」

ルルシーびっくり。

ルティス帝国では、生まれてすぐ名前をつけるのが普通ですからね。

箱庭帝国で、生まれてすぐに名前をつけない理由は…まぁ、あまり良い理由じゃないんですけど…。

ルアリスもセトナさんも、敢えて俺を口止めしないということは、話しても構わないという意味だと解釈して。

俺の口から説明させてもらいましょうかね。

「今でこそ、医療の水準が上がってかなり改善されていますが…。少し前まで、箱庭帝国の乳幼児死亡率は、非常に高かったんです」

「…!」

という俺の説明で、ルルシーも察したようだった。

そう。この箱庭帝国では、妊娠中の定期的な検診はおろか。

肝心の分娩時でさえ、ろくに医療設備も整っていない環境で出産が行われていた。

産婦人科医なんて、まともにいようはずもなく。

産婆だって、頼む余裕のない家は、ほとんど妊婦が一人きりで出産していた。

その為、生まれると同時に死ぬ赤ん坊の数は、ルティス帝国のそれとは比べ物にならないくらい多い。

更に、生まれた時は健康体でも、母体の栄養不足や衛生状態の悪さが原因で、最初の誕生日を迎えることなく亡くなってしまうケースも数多くある。

子供を出産しても、その子が大人になるまで生きられるか否かは、ある種の賭けのようなものだったのだ。

そんな過酷な生存競争の中で、箱庭帝国の民が、生まれた赤ん坊にすぐ名前をつけず。

半年以上経ってから、始めて名前をつけるという文化を考え出したのは、苦肉の策のようなものだったのだろう。
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