The previous night of the world revolution8~F.D.~
箱の中にアオダイショウがいると思って蓋を開けてみたら、特大サイズのキングコブラが入ってた気分。

別に良いですけどね。キングコブラくらいなら、戦って勝ちますよ。

それにしても、上級貴族様は俺達みたいな平民(笑)とは発想が違いますね。

様々な段階を一足飛びに飛び越えて、いきなり結婚とは。

マリーフィアにやけに気に入られてるのは自覚していましたが、そこまでとは思いませんでしたよ。

二週間前に貴族のパーティーで会ったばかりの相手に、いきなり求婚するなんて正気か、と言いたかったが。

俺は努めて穏やかに、優しげな声と表情を心掛けた。

「マリーフィアさん…。…冗談…を、言ってるんじゃないですよね?」

「は、はい…。勿論ですわ。こんなこと、冗談では言えませんもの…」

頬を赤らめるな。気持ち悪い。

貴族の小娘に求愛されても、ちっとも嬉しくない。

これがルルシーからのプロポーズだったら、涎を垂らして大喜びするんだけどなぁ。

個人的には噴飯ものだが、考え方を変えれば、これは願ってもないチャンスかもしれない。

マリーフィアの家…カミーリア家に近寄る、またとない絶好のチャンス。

ここは慎重に返事をするべきだろう。

「その…ルナニアさんは…わたくしのこと、お嫌いですか…?」

嫌いって言うか、正直眼中にない。

「そんなこと…。…嫌いだったら、今こうして会ってませんよ」

俺は本音を隠しつつ、まるで照れ臭そうな風を装ってそう言った。

「ですが…俺はあなたと違って、貴族でも何でもない、平民の身分で…」

「いいえ、そんなことはありませんわ…。…あなたは貴族なのでしょう?ウィスタリア家の…」

「…」

さっきの、「結婚したい」宣言より、こちらの方が遥かに驚いた。

アオダイショウだと思って箱を開けてみたら…ホオジロザメが入ってたみたいな。

いや、サメくらいだったら戦って勝ちますけどね。あんなヤツら鼻柱をぶん殴って鎌で一刈りですよ。

なんて、冗談言ってる場合じゃない。

認めるべきか否定するべきか、一瞬迷った。

しかし、今更否定しても無駄だった。

マリーフィアは、既に俺の正体について確信を持っている。

だったら、下手に否定するより、潔く認めた方がマシだった。

「…何故、そのことを?」

冷たい口調にならないよう気をつけながら、俺はそう尋ねた。

「それは…。その…実は…ルナニアさんに最初に会った時…。その…あなたのことが気になって…」

「…」

「どんな素性の方なのかしらって…。カミーリア家で雇っている調査会社に調べてもらったんですの…」

「…」

もじもじと、恋する乙女みたいな顔をして。

とんでもないことを告白してくれた。

こっちだってアイズにマリーフィアのことを調査してもらったんだから、同じことをされたのだと思えば、これでおあいこだが。

しかし…マリーフィアの執念を読み違えたな。

いくら表面だけ取り繕っても、裏社会では、俺は既に有名人である。

少し調べれば、俺の素性くらいいくらでも調べられるだろう。

そこらの民間の調査会社ならともかく。腐っても、マリーフィアは上級貴族。

上級貴族様のお抱えの調査会社なら、それなりに有能だろう。

で、最初に会った時から調べさせて、二週間が経って、ようやく俺の素性に辿り着いた…と。

…今日、マリーフィアがやけに挙動不審だったのは、これが理由か。
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