となりの色気がうっとうしい

一瞬、何が起きたのかわからなかった。


ただ、目の前にあるのは――。
薄むらさきの胴体に、つぶらな瞳。


見慣れた、しそのぬいぐるみだ。


「……っ」


しそを支えている手を辿ると、その向こうに天海くんの顔。


私と天海くんの間に置いていたはずのぬいぐるみを、彼がいつの間にか手に取っていたらしい。


そして今。
しそのぬいぐるみの口を、私の唇に押し当てている。


「……ふっ」


天海くんの口元が、ゆっくりと緩む。


「俺にキスされたと思った?」


そう言って、天海くんが私からしそを離す。


「な――っ!ち、違っ……!」


『さいってい!』と大声で叫びたかったけど、堪える。


ここで変に大騒ぎしたって、意識しているとかバカなことを言われるだけだ。


あくまで冷静に……。


私は、呼吸を整えながら足を崩す。
痺れが和らぐまで、どうにかしなきゃ。


「……天海くんの家の人、何時ごろ帰ってくるんですか?」


わざと話を逸らしてみる。


「ん?それまで俺といたいって?」


いちいち……。
どういう思考回路してたらそんな発言ができるのか。


まともな会話をこの人としようとした私が間違っていた。


「はぁ……」


と、わざとらしく大きなため息をつくと、天海くんが「そうカッカしないでよ〜」と笑って、少し間をおいてから続けた。


「大丈夫。誰も帰ってこないよ」


「えっ……?」

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