となりの色気がうっとうしい
奏は何も言わない。
ただ、不機嫌そうに私を睨みつける。
奏とこうしてちゃんと目が合うのはいつぶりだろう。
せっかく、久しぶりにまともに顔を見たのに。
あんなふうに怒鳴っちゃって。
でも……。
「奏、さっき天海くんに言ったこと、謝って」
「……なにそれ。なんか、お姉ちゃん変わったね」
奏はそう言って、空になったコップをシンクにおいて、フラーッと廊下へと向かう。
「ちょっと、奏っ!」
彼女の背中に向かってもう一度名前を呼べば。
バタンッ!
部屋のドアが、勢いよく閉まった。
「……ごめんなさい、天海くん」
ゆっくり椅子に座り直して、代わりに謝る。
「本当、奏ちゃんの言う通り」
「へ?」
「まさか、月雨ちゃんが俺のために奏ちゃんのこと叱ってくれるなんて……天海くん感動っ!」
天海くんは、わざとらしく口元を手で押さえる。
「……別に、」
「西木姉妹の当たりの強さには、慣れてるし平気だよ。……それに」
天海くんが、ふっと笑った。
「大好きなお姉ちゃんを独り占めされたら、そりゃ怒るよ」
大好きって……わかんないよ。
私のこと好きなら、あんな風に睨むかな。
自分でも驚いた。
今まで、奏にどんなことを言われても、あんな風に声を荒らげたことなんてなかったのに。
『俺のこと叱ったときみたいに、妹ちゃんとも面と向かってガツンと言って、話せばいいじゃん』
喫茶店で、天海くんにそんなことを言われたからかな。
「……頑張ったね、お姉ちゃん」
「え」
気が付けば、天海くんが私の横に立っていて。
彼の顔を見上げたのとほぼ同時に、頭に優しく手を置かれた。
なに……これ。
私たちの家族のことなんてなにも知らない天海くんなのに。
そんな彼に、『頑張ったね』なんて言われて。
どうして泣きそうになってしまうのか。