絶対零度の御曹司はおひとり様に恋をする
新幹線に比べたら時間はかかるけど、安心して過ごせながら帰れることに、流れてゆく景色を眺めながら隣で運転する冬上さんに私は心から感謝していた。

思えば冬上さんには助けてもらってばかりだ。

「すみません。冬上さんだってお疲れのはずなのに運転まで」
「さっきも言ったけど、俺も新幹線には乗りたくなかった。それに車の運転は嫌いじゃないんだ。むしろ気分転換になる。だから真下さんが気にする必要はないよ」
「よくドライブしたりするんですか?」
「時間があればね」
「そうなんですか。冬上さんはアウトドア派ですか?」
「さあな。スポーツは何でもやるけど、どうだろうな。まあ確かに、家の中で一日中じっとしていることは苦手だからそうかもしれない」
「何でも出来そうですね。冬上さん」
「そんなことはない。俺だって人間だからね。不得意なことだってあるよ」
「でも…。冬上さんが出来ないことであたふたする姿って想像つかないですね」
「真下さんは?」
「私ですか?うーん…。たくさんありますよ」
「例えば?」
「絵を描くこととか」
「絵?絵なんて自分で描きたいように描けば良いんじゃないか」
「それはそうなんですけど、限度があるというか。私の場合はライオンを描いたはずなのに、見た人からは生き物にすら見られないレベルなんです」
「ははっ。なるほど。それはすごいな」
「私も教えたんですから、冬上さんの不得意なことも教えてください」

冬上さんと話してると楽しい。
それに時々見せてくれる冬上さんの笑顔はとても素敵で、胸のあたりがほんのり温かみを増す気がする。

「そうだよな。真下さんにだけ話させて俺が黙ってるのはフェアじゃないから話すけど…」
「はい」
「ーーー料理が壊滅的なんだ」

隣でハンドルを握る冬上さんが口のあたりに手を当てて、気まずそうな表情になった。

「料理…ですか」
「真下さん。顔が笑ってる」
「あ…すみません。いえ、まさか料理って言うワードが出てくるとは思わなくて」
「意外?」
「はい」
「だからあまり人には話さないようにしてるんだ。みんなの俺に対するイメージは、おそらくさっき真下さんが言った通りみたいだからね」

冬上さんの声が、ワントーン低くなった気がする。

「すみません」
「何が?」
「何でも出来そうとか、あたふたする姿が想像つかないとか…。冬上さんのことをちゃんと知らないのに、好き勝手なことを言いました」

人なんて、周りから見ているだけじゃわからない。家族にだって、知らない顔はあるわけだし。
それに冬上さんだって、私が思っていた冬上さんとは全然違っている。
勝手にイメージされて、それを押し付けられたら誰だって窮屈になる。

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