嘘に恋するシンデレラ
────はっと目を開けた。
これが確かな記憶なら、丹羽さんの言っていた“噂”が真実味を帯びていく。
(わたし、本当に愛沢くんと……?)
思わずじっと見つめると、不思議そうに首を傾げられた。
「なに?」
「……ちょっとだけ、思い出したかもしれない。愛沢くんとのこと」
そう言うと、彼がおもむろに一歩踏み込む。
「隼人────って呼んで。また」
どこか物憂げな眼差しには期待の色が滲んでいて、逸らせないで捕まった。
きっとわたしが呼ぶのを待っている。
「は、隼人……?」
たったそれだけなのに、少したどたどしくなってしまう。
けれど彼は嬉しそうに笑った。
「そう。……いいね、やっぱその方が落ち着く」
そう満足気に離れ、鞄を肩にかけ直す彼。
ひっそりと息をついた。
嫌というわけではないけれど、ただただ動揺させられる。
彼は基本的に距離が近いから。
愛沢くんの中では、それが当たり前なのかもしれないけれど。
そっとその横顔を窺うと、表情を緩めているのが見て取れた。
「……嬉しそう」
「嬉しいよ。色々あったけど、またそうやって笑ってるとこ見られてよかった」
何だか少し、彼のことを誤解していたかもしれない。
もっと怖い人かと思っていたけれど、正直なのに素直じゃないだけだったみたい。
照れ隠しのように手が伸びてきて、くしゃりと髪をかき混ぜられる。
「……っ!」
一瞬、なぜか身体が強張った。
反射的に首をすくめたままあとずさると、警戒するように力が入ってしまう。
(わたし……)
自分自身の反応に混乱した。
心臓が早鐘を打っている。
近い距離感に戸惑ったというよりも、怯んだみたいだった。
「あー、ごめん。怪我してるんだったな」
「え……ううん、大丈夫」
愛沢くんはすぐに手を引っ込める。
苦く笑ったものの、動揺を隠せない。
傷そのものより、わたし自身を庇おうとした。
怖い、ととっさに思ってしまった。
『もしかすると、灰谷さんは日常的に暴力を受けていた可能性があります』
ふと、先生の言葉が意識を割って流れ込んでくる。
『暴力の可能性を否定できないということは念頭に置いておいてください。殴られた上で階段から突き落とされた、とか。灰谷さんに心当たりがないなら、1年以内に何かがあったのかと』