嘘に恋するシンデレラ

 不機嫌そうな声色には有無(うむ)を言わせない威圧感があった。
 振りほどくこともできず、引っ張られるがままに歩き出す。

「待って。でも、あの……」

「黙ってろよ」

 刺すようなひとことに驚いて口をつぐんだ。

 思わず星野くんを振り返るものの、彼は複雑な表情で立ち尽くしているだけ。

 自分でも彼に何を求めたのか分からなかった。
 けれど、わたしが“助けて”とかそういう明確な意思表示をしない限り、星野くんは動かないような気がする。

 わたしを最優先してくれる彼は、不確かな状況に自ら飛び込んだりしない。

()……っ」

 痛みが思考を(さえぎ)って割った。
 手首をきつく締めつけられ、思わず顔を歪める。

「は、隼人。痛いよ……」

 困惑しながら呼びかけるけれど、その耳には届いていないのか無言で階段を下りていく。

 足がもつれそうになりながら、わたしも必死でついていった。
 戸惑いと恐怖が膨らんでいく。

 暴力を受けていたという可能性も、何だか突飛(とっぴ)なものとは言いきれなくなってきた。



 家へ帰ってから、何気なく手首を眺めた。
 力加減を知らない愛沢くんに掴まれていたそこには、赤い痕がくっきり残っている。

(必死だった……。それだけだよね?)

 彼にとって明確な敵である星野くんから、わたしを守ろうとしてくれた。
 ただ、余裕がなかっただけで。

 理解はできる。
 愛沢くんの意図にも感情にも、想像が及ぶ。

 けれど、なかなか気持ちがついていかない。
 ようやく彼のことが分かり始めたと思ったのに、前を向きかけたその心は恐怖一色に染まってしまった。

(本当はただ、気に食わなくてああしただけなんじゃ……?)

 自分の不機嫌さをぶつけ、思い通りにならないわたしを責めるために。

 だめだ、とかぶりを振って沈みそうな思考を振り払う。
 感情ではなく情報を判断材料にするべきだ。

 鞄を下ろすと、机の引き出しや収納棚の中身をひっくり返した。
 彼らにまつわるものがないか改めて調べてみるけれど、めぼしいものはない。

 スマホを取り出すと、まずはアルバムを開いてみる。
 よく確認していなかったけれど、この中に手がかりがあるかもしれない。

「え……」

 つい(いぶか)しむような声がこぼれ落ちる。
 期待に反して、カメラロールの中には写真も動画も何ひとつとして入っていなかった。

 そんなことがあるのだろうか。
 不自然な現実を目の当たりにし、違和感が(つの)る。
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