嘘に恋するシンデレラ
分からない。
けれど、そういうことなら星野くんの態度やスタンスにも頷けるような気がする。
何度も自分を責めていたことにも。
何というか、隼人の言ったことはものすごくありえそうな話だと思えた。合点がいく。
(でも……じゃあ隼人は何なの?)
眉根に力を込め、訝しむように彼を見つめてしまう。
すべては隼人が仕組んだことなんじゃなかったのだろうか。
わたしはまた惑わされている?
騙されているだけ?
(もう分からなくなってきた……)
いったい、何が真実なのだろう。
「……ごめんな、こころ。ちゃんと守れなくて」
テーブルの上で握り締めていた手が包み込まれる。
あたたかい体温に強張りが少しほどけていった。
「なあ、一緒に帰ろ。またそうなっても次は守れるように。俺のこと信じてくれるよな?」
混乱から立ち直れてはいないけれど、その言葉の意味は正しく理解できた。
不思議と冷静に。
(それはまずい。だめ)
そういう危険な状況は何がなんでも避けるべきなんだ。
なんて思う反面、別の考えが浮かんでくる。
隼人の話が本当なら、彼は別にわたしに復讐しようとなんてしていないのではないだろうか。
わたしの推測は破綻する。
そもそもそんな計画はなかったのだから。
(でも、信じきれる?)
理性がブレーキをかけ、思考はますます深みにはまっていく。
それにわたしは記憶を失ったふりをしている。
当然、隼人の暴力性も知らないことになっている。
ここで拒めば怪しまれるかも。
だけど、大人しく従うわけにもいかない。
信じていいと、隼人が敵でないと、保証されたわけでもない。
仮にその保証があっても、きっとまた痛くて辛い思いをすることになるだろう。
それと暴力とは、まったく次元のちがう話だから。
「ごめん、今日はあんまり体調よくなくて」
必死で言葉を探し、慎重に選ぶ。
「頭の整理もしたいし、ひとりでいたいかな……」
言い終えるや否や、重ねていた手が離れていく。
ばん、とテーブルを叩くように立ち上がった。
怒りと不満を直接ぶつけてくる。
「……っ」
怯えてしまうのを隠しきれないで隼人を見やった。
信じられないほど冷たい眼差しが返ってくる。
どうしても、こういう怒りっぽくて衝動的な一面は繕いきれないみたいだ。
やっぱり、彼はそこまで器用じゃない。
「……あっそ。分かった」
態度も声音も不機嫌そのものだった。
実際は1ミリも分かってなどいないのだろうけれど、それだけ言うとさっさときびすを返す。
遠ざかる背中を見つめながら、おののくような自分の心音を聞いた。
人目があって助かった。
もしふたりきりだったら、きっとこの程度じゃ済まなかっただろう。