嘘に恋するシンデレラ
いつも通り無言でスマホを確かめる隼人を何となく眺めていると、ふいにあることに思い至った。
(そういえば……)
ふたりとも、わたしのスマホを無断で操作したことがあった。
アカウントが消えていたり戻っていたり、それは間違いなく彼らの仕業。
わたしのスマホに触れること自体は、ふたりともに可能だったんだ。
「────あのさ」
ごと、とテーブルにスマホを置いて返しつつ、隼人が切り出す。
「前にこころ、あいつに頭殴られて歩道橋の階段から突き落とされたことあるんだよ」
どきりと心臓が跳ねた。
それについてはあくまで星野くんのせいにして、しらを切り通すつもりみたい。
「どういうこと?」
わたしは食い下がった。
以前話してくれたのと同じ内容だろうか。
ちがっていたら、隼人の“黒”を確定して問い詰められる。
とはいえ、そのときのことは結局いまでも曖昧なまま。
「いや、俺……ちょっと嘘ついてた。もう覚えてないだろうけど」
「嘘……?」
思わぬ流れだった。
彼の言葉を不安気に繰り返すと、苦しげな表情が返ってくる。
「嘘っていうか、言ってなかったことがある」
何なのだろう。
ただならぬ雰囲気に、沈み込むような心音が響く。
「実はあのとき、俺もその場にいた」
あまりに驚いて声が出なかった。
瞬きも呼吸も忘れる。
「歩道橋の上……こころがひとりだったからちょうどいいと思って。星野のこと警告しようとしたんだ。あいつは危険だって」
確かに彼なら、そう都合のいい瞬間が訪れるのにも頷ける。
冷静に話せるタイミングはほかになかったかもしれない。
「そのとき、星野が現れたんだよ。石か何か持っていきなり俺に襲いかかってきて……気づいたおまえがとっさに庇ってくれた」
「え……っ」
「だけど当たりどころが悪くて、おまえは意識を失った。それで、そのまま階段から────」
隼人は先ほど以上に苦しげに顔を歪めた。
絞り出すような声が途切れる。
「そんな……」
「俺、支えようとしたけど間に合わなくて」
彼の声がわずかに震える。
(……そっか)
その瞬間のことが、以前に少しだけ蘇ってきたことがあった。
実際にはただの夢だったかもしれないけれど。
わたしは背中を押されたのだと思っていた。
そんな感触があったから。
だけど、そうじゃなかったのかもしれない。
本当は、支えようとしてくれた隼人の手が当たっただけだったのかも。
────ということは、いま、彼の口から語られたのがあの夜の真相なのだろうか。