嘘に恋するシンデレラ



 ひとりで帰路についた放課後、家の前にさしかかるとそこには星野くんが待っていた。

「こころ」

 どこまでも優しくて甘い声色と表情。
 何もかもを放り出して、無心でそれを信じられたら楽なんだろうな。

(でも……)

 ここまで来て、そんな選択肢はない。
 隼人からあんな話を聞かされた以上はなおさら。

 迷いと疑心(ぎしん)が邪魔をする。
 いや、実際には真相へ近づく踏み台になってくれているのかもしれないけれど。

 隼人の話が事実なら、わたしの怪我や記憶喪失は事故みたいなもの。
 しかし、それならそれでそうと言うべきだ。

 星野くんも分かっていたはず。
 だけど、そうはしないで過去の一切を切り捨てる選択をした。

 思い出して欲しくなかったのはそのせい。
 リセットしてしまおうとした。

(もし、本当に事実なんだとしたら……)

 わたしが記憶をなくしたのをいいことに、真実までなかったことにしようとしたのなら────星野くんは味方とは言えない。

 本当の意味でわたしのことを想ってくれているとは言えない。

 真相を隠すためにいままで口をつぐんできたなら。
 最初から、自分のためだけにわたしを騙そうとしていたということになる。

「星野くん」

 硬い声で呼びかけると、普段と変わらない様子で小さく首を傾げる彼。

 緊張していた。
 視界を覆っていた霧が少しずつ晴れて、ようやく見え始めた真実に手を伸ばしている感覚。

 ずっと知りたかったことを、あるいは知りたくないことを、これから目の当たりにするかもしれない。

「本当のこと教えて。あの夜、何があったのか」

 踏み出した一歩はもう、もとには戻せない。
 引かれた一線を越えてしまったから、あとには引けない。

「星野くんの言葉で、ちゃんと話して」

 彼の顔から余裕の色が落ちていく。
 ゆらゆらと視線が揺れる。恐らくはその心情も。

「…………」

 眉を寄せ、固く口を結んだ。
 険しい表情とは裏腹に、伏せた目元は物()げ。

 ややあって、星野くんが静かにかぶりを振る。

「……言えない。言いたくない」

「どうして?」

 弾かれたように一歩詰めた。
 だんだんと隼人の言葉が真実味を帯び始めるのを感じながら。

「事故だったんでしょ?」

「事故……?」

 ゆったりと上げられた視線が交わると、彼は力ない笑みをたたえた。

「そんなんじゃない。偶然とかじゃなくて、僕がこころを────」
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