嘘に恋するシンデレラ
「これだけじゃ信じられないよね。……分かってる、でも」
彼は握り締めていた手をほどき、わたしの両肩を掴んだ。
添えるように優しく。
「僕がこころを好きな気持ちに嘘はないから」
目線を合わせるように屈んで、まっすぐに見つめてくる。
その瞳は澄んでいるのに深くて、奥底までは見通せない。
「お願い、こころ。僕を信じて」
その声に熱が込もったのが分かった。
「……もういいよ、疲れちゃった」
力なく呟いてあとずさると、するりと手が離れていく。
そのまま背を向けて、呼び止める声にも振り返らないで家へ入った。
玄関のドアによりかかってため息をつく。
(分からなくなっちゃった)
それぞれの隠しごとを守るための嘘が散りばめられていて、見極めたいのに惑わされてばかり。
記憶さえ戻ってくれたら、答え合わせができるのに。
◇
1時間目終わりの休み時間、現れた隼人は普段より柔和な雰囲気をまとっていた。
「これやるよ」
差し出されたのはペットボトルの紅茶。
「好きだろ?」
「え……あ、ありがとう」
確かに好きだけれど、何だか素直に喜べない。
隼人の機嫌がいいのは悪いことじゃないのに、何かしらの意図を勘繰ってしまう。
「今日は一緒に帰るよな?」
返答に窮した。
優しげな口調だけれど、有無を言わせない圧を感じる。
「……うん」
結局、機嫌を損ねるのが怖くて頷いてしまった。
不安になったものの、すぐに思い直す。
隼人は別に、復讐計画を企てているわけじゃないと分かったはず。
ちゃんと本当のことを話してくれたし、わたしが記憶のないふりをしても隠しごとをしなかった。
そうだ、と思い直す。
いまとなっては、嘘つきで隠しごとばかりの星野くんより信じられる存在かもしれない。
「よかった。じゃあまたあとで」
屈託のない笑みも、あっさりとした引き際も、なぜか不気味に思えてしまう。
疑心暗鬼に慣れすぎて、不必要に深読みしているだけかもしれないけれど。
何となく、嵐の前の静けさみたいな不穏さが漂っていた。
「ん」
隼人と校門を潜ると、手を差し出される。
わたしは記憶をなくしたことになっているけれど、彼の中ではいまも変わらず関係が続いているみたい。
少なくともそれが隼人の意思。
応じるように手を重ねようとしたけれど、届く前に握られた。
力加減を知らないみたいに強く。
「痛……。待って、ちょっと」
無意味だと分かっていながら、たまらず抗議する。
黙れ、とでも言いたげに、ぐい、とすぐさま引っ張られた。
戸惑いながらその横顔を見上げれば、先ほどまでの上機嫌さなんて消え去っていた。
優しいのはまやかしだった。
(怒ってる)