嘘に恋するシンデレラ
苦しそうに口をつぐんだ星野くんをまじまじと見つめる。
(自分の意思で殴って突き落とした、ってこと……?)
言葉にこそされなかったけれど、その先に続く内容なんてそれくらいしか考えられない。
やっぱり、隼人の言い分が真相なのだろうか。
「何のために……」
星野くんは、わたしを?
掠れた声がこぼれ落ちた。
目の前がぐらぐらと揺れていた。
足元が揺れているのかもしれない。
そんな錯覚を覚えながら、漂うような足取りで歩み寄る。
「星野くんは、わたしを助けようとしてくれてたって。守ろうとしてくれてたんじゃないの……?」
声が、吐息が、唇が震えた。
泣きそうなのは、彼を信じたい気持ちがほかのどの感情よりも大きいからだ。
納得できるだけの説明をしてくれるのを待っている。
合理的で崇高な理由があると期待してしまっている。
「そうだよ。ぜんぶ、こころのため」
────そんなもの、あるわけないのに。
「何もかもこころを想ってのことだよ。きみの幸せのため。それしかない」
「そんな……」
「だから言わない。あのときのことは……僕の口からは。きみのために」
その主張はずっと変わらない。
彼の原動力は、わたしの幸せだって。
ただ、わたしを殴ったり騙したりすることがわたしのため?
(そんなの意味が分からない)
指先がひどく冷たかった。
心に空いた空洞を風が吹き抜けていく。
「……分かんない。何でそれがわたしのためになるの」
「知らない方が幸せなこともある。こころが忘れてることは、必ずしもいいことばかりじゃないから」
何だか力が抜けて、立っているのがやっとだ。
この感情は何だろう。彼に対する失望? 拒絶?
いずれにしても最初のきっかけが星野くんだったと判明した以上、隼人に復讐目的があった、という前提も崩れた。
隼人の計画でも偶然の事故でもないのなら、いったい何だったのだろう。
わたしを傷つけたかったのは、星野くんなのだろうか。
(でも、あの写真……)
背後に迫っていた隼人。
頭に焼きついて離れない。
たとえば最初にわたしを殴って突き落としたのが星野くんだとしても、昨日はちがったかもしれない。
ふたりのうちどちらかを全面的に信用することも、完全に疑うこともできなくなった。
思ったよりも複雑に、それぞれの思惑が絡み合っているのかもしれない────。