嘘に恋するシンデレラ

 わたしが頷くと、彼は石を振り上げる。
 思わず息を止めて目を閉じた。

 ガッ! と鈍い音がして、目を閉じているというのに視界が揺れた。
 一瞬、ちかっと白く明滅(めいめつ)する。

 想像していたより重い衝撃に見舞われたけれど、大したことない、とすぐに分かった。

『大丈夫? ごめん……!』

 星野くんが慌てたように謝る。
 わたしが無理()いしたことで、彼は一切悪くないのに。

 石が直撃した額に触れてみる。
 いまのところ()れてもいないし、血が出たりしているような気配もない。

 さすがに怯んであまり力を入れられなかったみたいだ。

『だめ、これじゃ足りない。もう1回……』

『これ以上は、僕には……。ごめん、やっぱり別の方法探そう』

 放られた石が、かつんと軽い音を立てて転がっていった。
 半ば途方に暮れたようにあたりを見回したとき、例の歩道橋が目に入った。

『じゃあ、あれ。あの階段から落とされたことにしよう』

『待って、そんなの危険だよ。万が一のことがあったら……』

『一番上からじゃなければ大丈夫なはず』

 躊躇する星野くんの手を引いて、歩道橋の階段を上っていく。
 上りきる少し手前で足を止めた。

『こころ、考え直した方がいいんじゃない? きっと、実害を作り出すなんて考えがそもそも間違ってた。何も悪くないきみがこんな危ない橋を渡る必要なんてないよ』

『これしかないの! もう、わたしには……この方法に賭けるしか』

 隼人の脅威から逃げ出す方法がほかに浮かばない。
 悠長なことを言っている余裕はないし、身も心もすり切れるほど追い詰められていた。

 心底不安気にわたしを見つめていた彼は地面を見下ろして、そんな心情を逃がすように深く息をつく。

『……分かった。じゃあ、僕も信じる』

 ────押し切られる形でとはいえ、手を貸してくれた星野くんがわたしの背中を押したんだ。

 階段を転がり落ちたとき、先ほど衝撃を受けた額が切れて血が流れていった。

 意識が朦朧とする中、ずっと彼の声を聞いていた。
 救急車が来るぎりぎりまで、あのハンカチで傷を押さえながら「こころ」と呼び続けてくれていたんだ────。

「もしかして、わたしのスマホのデータ消したのも星野くん?」

 ふと思いついて口にすると、彼はうつむきがちに前を向いて小さく頷く。

「……そうだよ」

 虚空を見つめたまま言葉を繋いだ。
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