嘘と恋とシンデレラ
第三章 愛の魔法

第11話


 ふと目が覚めたとき、何だかいつもより薄暗かった。
 時刻を確かめる。まだ早朝の4時半頃だった。

「…………」

 ベッドの上でごろんと寝返りを打つけれど、すっかり目が()えてしまっていて眠れそうにない。

(学校行きたくないなぁ)

 今は星野くんや愛沢くんに会いたくない。

 ふたりともに命を狙われている可能性に辿り着いた以上、よりいっそう強くそう思ってしまう。

 記憶のためにきちんと向き合って関わっていくべきだと分かっていても、命には代えられない。

(でも、もうわたしひとりじゃどうにもならないのかも……)

 力では絶対に敵わないし、かと言って彼らの思惑をすべて看破(かんぱ)出来るとも思えない。

 警察に相談することも視野に入れるべきだろうか。
 でも、何の証拠もない。

 彼らがわたしを傷つけた証拠も、彼らがわたしを殺そうとしている証拠も。

 それに、自分の身に危機が及んだとき、警察が間に合うとも限らない。

 例えば昨日、紅茶に盛られていたのが睡眠薬じゃなくて毒薬だったら?
 あのバットで殴られていたら?

 たとえ警察を呼んでいても間に合わなかった。
 殺されるときなんて一瞬だ。

「……行くしかないか」

 どちらにも会いたくないのは山々だが、家はバレているし危険過ぎる。

 学校なら人目があるから助けも望めそうだし、行った方がいいだろう。
 その方が恐らく多少は安全だ。



     ◇



 待ち伏せされたりしないよう、早めに家を出た。
 怖くてたまらないし、今は彼らと冷静に接せられる自信がない。

「……!」

 校門を潜ったとき、不意に手首を掴まれた。
 心臓が跳ねる。

 振り返った先にいたのは、血相(けっそう)を変えた愛沢くんだ。
 苛立ちを滲ませたような険しい表情。

 避けるためにわざわざ時間をずらしたというのに、どうしてもう来ているのだろう。
 絶望的な気持ちになる。

「お、おはよ。隼人」

 なるべく刺激しないように、むしろ(なだ)めるように、普段通りの笑みをたたえようとした。

 けれど、どうしても頬に余計な力が入って引きつってしまう。

「……は、気楽なもんだな。来いよ」

 不機嫌そうな彼に、ぐい、と手を引かれる。

 足がもつれてつんのめりそうになりながらも必死でついて歩いた。

「い、痛いよ……!」

 ぎりぎりと締め上げられる手首があまりにも。
 振りほどいたり抵抗したりする余地すらない。
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