エルピスの花嫁~双子の神様に愛されて~小説版
「助けてくれて、ありがとう」

 降ってきた植木鉢から、腕を引いて助けてくれたこと。まだちゃんとお礼言ってなかったから。
 抱きしめられるような形になったことを思い出して、きっと赤くなってる。
 でも、咲仁くんの目を真っ直ぐに見て言えた。

 咲仁くんの眉間のシワと口元が緩む。

「どういたしまして」

 初めて見た、咲仁くんの笑顔だった。

「でも、私のことどんくさいって言ったでしょ! ちゃんと聞いてたんだからね」

 その笑顔に、余計に顔に熱が上がる気がして、それを誤魔化すように文句も言う。
 これも、忘れちゃいけない大切な話。あの時は植木鉢が落ちてきたショックで反論できなかったけど、こういうことはちゃんと言っとかなくちゃ。

「はいはい」

 咲仁くんの口元は緩んだまま。軽くあしらわれてしまう。

 最初はインターフォン越しだけど丁寧に謝罪してくれたのに。

「なんか、印象が違う……もっと礼儀正しい人かと思ってたのに」

「そりゃ、最初はな。幸夜がいきなりキスして、俺も態度悪かったら、最悪警察沙汰だろ」

 私がぼやくと、咲仁くんはそう言う。最初は、猫を被っていただけってこと。

 咲仁くんは相変わらずセキをしていて、右の肋骨辺りを押さえていた。私から興味をなくしたみたいに、洗面台に向き合う咲仁くんに、私も洗面所を出る。
 咲仁くんは病弱っぽいのに、ちょっと俺様っぽい感じもする。

「わっ」

 咲仁くんを気にしながら出たから、前方不注意だった。私は誰かに――幸夜くんしかいないんだけど――にぶつかってしまった。

「珠子ちゃん! 珠子ちゃんの方から僕の胸に飛び込んできてくれるなんて嬉しいなぁ!」

 幸夜くんの胸にぶつかった私は、そのまま満面の笑顔で抱きしめられてしまう。
 幸夜くんのこの笑顔。私はちょっと疑ってる。人懐っこい、人好きするように、わざと作られた計算高さを感じている。
 こんなこと考えるなんて失礼だってわかってるけど、幸夜くんは天然に見せかけた腹黒さがある気がする。

「過度なスキンシップは禁止です!」

 でも、だからこそ幸夜くんには咲仁くんほど緊張しないでいろいろ言える気がした。幸夜くんの手を振りほどこうと暴れても、幸夜くんの力は強かった。

 病弱俺様、天然腹黒。イケメン双子兄弟と平凡な私との日々が始まる。
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