余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
 マンションは白藍総合病院から徒歩十五分の場所にあり、ニ十階建てのとても綺麗な建物だ。病院にすぐ駆けつけられるように近い物件を選んだそうで、別の科のドクターも同じ理由で何人か住んでいるらしい。

 エントランスからロビー、エレベーターに至るまで高級感のある内装で、ホテルのように清潔感が保たれている。夏くんの部屋が多少散らかっていても汚く思えないのは、このマンション自体のグレードが高いせいもあるだろう。

 十七階にある彼の部屋の前に到着しインターホンを鳴らすと、すぐにドアが開かれた。

 スウェット姿でサンダルを引っかけたラフすぎる彼が、「お疲れ様」とふにゃっとした笑顔を見せる。緊張と胸キュンで心臓が騒がしくなりつつ、表面上は「お邪魔しまーす」といつもの調子で中に入った。

 夏くんは私が提げていたマイバッグに手を伸ばし、当然のごとく代わりに持ってくれる。さりげない気遣いができるのはさすがで、感謝して靴を脱ぐ私に彼が言う。

「連絡くれれば迎えに行ったのに」
「たいした距離じゃないから大丈夫だよ。夏くん寝てるかもしれないなぁとも思ったし」
「さすがに起きてるって。五時間昼寝したから」
「それは昼寝の域を越えてるような……」

 たわいない話に笑いながら廊下を進み、木製の家具とモスグリーンのカーペットが温かみを感じるナチュラルテイストのリビングに入った瞬間、ふと違和感を覚えた。

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