私だけの白昼夢
「こ、こんにちは!今日入寮予定の雛と申します、、、あ、あの、、、」
緊張のせいか、無駄に早口になる。言葉がつっかえて出てこない。
「まぁ!あなたが雛さんね、確かルーエ地方の方よね?そんな遠くから大変だったでしょう、、、さぁさぁここに座って」
日が差し込む席へと案内させられ、席にはティーポットとコップが用意されている。
「今日はね、ゆず茶を用意したのよ。ゆずにはビタミンCが多く入っていてね、、、お肌にいいのよ」
ティーポットから注がれる美味しそうな飲み物と匂いに思わず喉がなる。
「あ、いただきます、、、お、おいしい、、、!」
「ふふふ、でしょう。このお店で1番人気なのよ」
年老いた女性が嬉しそうに笑う。
「では、改めてまして、、、私は千代と申します。こんなおばあちゃんだけどこの茶屋と紅荘の管理をしていてね、おかげで毎日順風満帆よ」
千代さんがにこっと笑う。じゃあさっそく案内しないとね、と席を立つ千代さんをみて自分も席を立つ。1度外へでて隣にある扉の前までくる。
「ここが紅荘の入口よ、茶屋のお隣だからね。ささ、ドアを開けてみて!」
おそるおそるドアをあけるとさっきみかけた階段と繋がっている。
「雛ちゃんは2階の部屋だからね、ここの靴は1人3足までよ、入らなかったらお部屋においてね、あとは、、」
階段を登らながら説明をしていく千代さんに必死についていく。
階段沿いに茶屋の店内が見下ろせるようになっており、開放感がすごい。
階段を上ると左右に部屋が2つずつあり、部屋が向かい合っている。その間には本棚とテーブルがあり、小さな図書館のようになっている。この紅荘の外観といいまるで絵本の中の世界のような雰囲気だ。
「茶屋が見下ろせていいでしょ?寮とはつながっていてね、あ、壁は厚いから音漏れは大丈夫よ、茶屋も夕方には閉まるからそんなにほとんど気にならないと思うわ」
千代さんがドアノブに手をかける。
「さぁさぁ、ここが雛ちゃんのお部屋よ」
「失礼します、、、うわ、、、すごいかわいい」
部屋の中は絵本の中のように綺麗に飾られていて自分にはもったいないほどの部屋だ。
「ふふふ、雛ちゃんに喜んでもらえてよかったわ。トイレとお風呂は別だけどね、、、すぐ近くに、、あら!」
千代さんが驚い方をみると隣の部屋から女の子が顔を覗かしていた。
「千代さん、その子が新しく入ってくる子ですか?」
その子は興味深そうに私を見ている。
「(すごい美人さん、、、目おっきくて肌白い、、、)」
「あら、ちょどよかった!雛ちゃんこの子はあなたと同い年の子なんだよ!お隣の部屋だから仲良くなっちゃうかもしれないわね〜」
ぐいっと私の背中をおして、その子の前に引きずり出される。お互い目が合い、なんとも言えない緊張が走る。
「あ、あのわたし隣に住んでます、莉《れい》って言います、千代さんがいった通り同い年だからその、、、これからよろしくお願いします」
頬を少し赤らめながらいう姿に思わず見惚れてしまう。
「あ、私は雛っていいます!よろしくお願いします!」
「なら、せっかくだし莉ちゃんに寮のご案内してもらおうかしら!」
お互い驚いたように目を見合わせる。その間に千代さんはよいしょと言いながらササッと階段を降りていく。
「あはは、、、千代さんはああいう人だからあんまり気にしないで。じゃあ寮の案内しますね、じゃあ、、「あの!」」
その子は被さった声に驚いて振り返る。
「あの!よかったらタメ口で話さない?同い年だし、、、私まだこっちでお友達今なくて、、、」
ちらっとその子をみると驚いたように目を大きく開けて固まっている。馴れ馴れしかっただろうか、恥ずかしすぎて体の中でマグマが湧いているようだ。
「あ、いや、すみません、その私まだ友人が、、、」
我ながら何を言い訳しているのだろうか。もうすでに友人作りは失敗したのかもしれない。もごもごしている私をみてその子はそっと口を開く。
「私なんかでいいの?、、、友達だなんて」
申し訳なさそうに自分をみている。もうこれは押し切るしかないと心に決める。
「そんなことない!本当に友達になりたいの!だってすごく優しくて可愛いし、声も可愛いし!、、、可愛し!」
かわいいしか言っていない自分に気づき、恐る恐る前を見るとくすくすとその子は笑っていた。
「ふふふ、ありがとう。すんごく気持ちは伝わったよ。じゃあお互い呼び捨てで名前言い合おう?」
首を傾げる莉の顔にまた見惚れてしまう。
「うん、よろしくね、、、莉」
お互い少し照れくさそうに笑い合う。莉が私の手を引っ張り嬉しそうに言う。
「じゃあ早く案内済ませて沢山お話しよ!」
今まで何人もの男がこの笑顔にやられたのか気になってしょうがないがその気持ちをぐっとこらえながら説明を聞く。しかしら、ここで新事実が発覚する。
「、、、えぇ!向かいに男の人か住んでるの!?上の階じゃなくて?」
「そうなの、そこら辺はこの寮は制限がなくてね、、、私達の向かいの2つの部屋は大学生が住んでて私の部屋の向かいの人が男の人だよ」
今の時代、男女が一緒の階に住むなんてことがあるのだろうか。驚きのあまり固まってしまう。
「けど安心して!入居者は千代さんがちゃんと選んでるから!それに危ない人なら階が違うようになってるから、、、」
言葉通りならなら上には危ない人が住んでるのだろうか。莉が一生懸命説明してくれているとガチャっとドアが開く。そこには少しぽっちゃりとした男の人が立っていた。
「あ、こんにちは。僕大学生の新田っていいます。2人の声が聞こえてきちゃってつい、、、ごめんね男の人が一緒だと不安だよね?変なことはしないから安心してほしいんだ、、、信じてはくれないだろうけど」
新田という男性は恥ずかしそうにしながら笑っている。
「新田さんはね、この紅荘のマスコットキャラクターなんだよ、お腹が可愛いでしょ?」
莉がそう言うと、新田さんがお腹を笑いながらさすっている。
「僕の隣に住んでる女子学生は渡辺さんっていってね、僕と同い年なんだけど今は実習中でいないから会えるのは来週になると思うよ」
「あ、そうなんですね。ありがとうございます、、、」
私の部屋の前ら渡辺さんという女性らしい。新田さんは課題があるんだったとお腹を揺らしながら自分の部屋に戻って行った。
「ね、そこまで危ない人にはみえないでしょ?」
「じゃあ上に住んでる人は?上の階は満室なの?」
莉との間に静かな時間が流れる。聞くべきではなかったのか。
「上は満室だよ。全員男子なんだけどね、3年生と2年生が2人ずつ。3年生の人達は勉強で忙しいのかほとんど会わないよ。夜遅くまで塾にいってるみたい。あとは、、、」
眉をしかめる莉に思わず自分も眉をしかめる。不良でもいるのか、もしかしたらすごい女たらしなのかもしれない。そんな妄想を1人で広げていると階段の方から物音がする。
「ひどいよ莉、、、俺のことはちゃんと紹介してよ、、、」


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