君との恋のエトセトラ
「はあ、夢の国のオムライスを食べられたなんて。もう感激です」
「それは良かった。またいつでも食べに来よう」

満足気な凛を連れて、航は1階の端にある高級食材や輸入品を扱うスーパーへ行く。

「ひゃー!お洒落なスーパーですね。こんな陳列の仕方あるんだ。うちの近所にはそもそもスーパーがないんですよ。お肉屋さんにお魚屋さん、果物屋さんって感じで一軒ずつ回るんです。しかも段ポールにゴロゴロ入ったままだし。こんな小洒落たディスプレイ!なんだかトマトが輝いて見えます」

手にしたトマトを裏側までじっくり眺めてからカゴに入れる凛に、航はただもう顔を引き締めるのに必死だった。

「楽しかった!スーパーのお買い物って、こんなに楽しいんですね」
「そうか、それは俺も知らなかったよ」
「本当に?もったいないです」
「そうだな。今まで知らずにいてもったいなかった。これからはもっと楽しむよ」
「そうですね」

サッカー台で品物を袋に入れていると、足元にコロコロとグレープフルーツが転がってきた。

拾い上げた凛は顔を上げて、落とし主らしい男性のもとへ行く。

「あの、こちらを落とされましたよ」
「え?ああ!ありがとう」
「いいえ」

にっこり微笑んでから踵を返すと、ねえ、と声をかけられた。

「良かったらお礼にコーヒーでもおごらせてくれない?」
「え?いえ、お礼なんてそんな」
「いいから。ね、行こう」

男性は凛の背中に手を添えて強引に歩き出す。

「いえ、あの本当に私…」

思わず後ずさった時、凛!と名前を呼ばれた。

「はい」

振り向くと、航が近づいて来て凛の腕を取る。

「帰るよ」
「あ、はい」

凛は男性に会釈してから、航と一緒に足早に出口へと向かった。
< 28 / 168 >

この作品をシェア

pagetop