君との恋のエトセトラ
「あの、河合さん?どうかしましたか?」

前を見たまま険しい表情で歩く航に、凛が恐る恐る声をかける。

無言のまま車まで来ると、航は助手席のドアを開けて凛を乗せ、自分は運転席に回ってドアを閉めた。

ハンドルに両手を載せると、ため息をついてから凛の方に身体を向ける。

「ねえ、君。分かってる?さっきの男の思惑。あいつが君をどうしようとしてたか」
「え…」

初めて見る航の怒ったような表情に、凛は思わず言葉を失う。

「もっと警戒心を持たないとダメだ。若い男にあんなににっこり笑いかけたら、いつまた同じように強引に連れて行かれるか分からないよ?ここは東京なんだ。気を抜けば色んな危険が…って、え?どうしたの?」

みるみるうちに目に涙を浮かべる凛に、航は驚いて焦り出す。

「だ、大丈夫?」
「はい、ごめんなさい。びっくりしてしまって…。すみません」
「いや、俺の方こそごめん。心配でつい言い過ぎてしまった」
「いえ。私が浮かれていたから…。本当にすみません」

そう言うと凛は指先で目元を拭い、懸命に涙を堪える。

航はふっと笑みを洩らすと凛の頭に優しく手を置いた。

「ごめん、俺が悪かった。楽しそうにしてる君を見て、俺も嬉しかったよ。だけどあの男に言い寄られていて、心配になったんだ。嫌な話だけど、世の中には悪いヤツもいて色んな犯罪も起こってる。君の身に何かあったら、お母さんや妹さんも悲しむから」
「はい、気をつけます」
「うん。じゃあこの話はもう終わり。さ、帰ろうか」
「はい」

コクリと頷く凛に、航は優しく笑いかけた。
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