君との恋のエトセトラ
第十四章 現実の世界
「おはようございます」
「おはよう」

翌朝。
どうにも気になってオフィスに顔を出した航は、デスクにいた凛に笑顔で挨拶されて小さく返事をする。

(無事に木原のマンションに引っ越せたんだな。ん?あれは…)

凛のデスクの上には、マグカップとお揃いのRのイニシャルが入ったステンレスボトルがあった。

(使ってくれてるんだ)

妙に嬉しくなる気持ちを抑えながら席に着く。

(いかんいかん。彼女はもう木原の婚約者なんだ。俺が何かを思うのも許されない)

ここは一つ、心を閉ざして無の境地にならねば。
見ざる言わざる聞かざる…とブツブツ唱えながらパソコンを立ち上げていると「河合さん」と声をかけられた。

顔を上げると凛がすぐ目の前に立っている。

「うわっ、見ざる!」

慌てて視線を逸らすと、は?猿?と凛が顔をしかめる。

「いや、違うんだ、ごめん。えっと、何?」
「はい。Moonlightの梶谷さんから、私と河合さん宛にメールが届いています。次回の打ち合わせの日時を決めたいと」
「あ、そうなんだ。今確認するよ。えっと…、あった。再来週の月曜の11時からね。俺は大丈夫だけど、君は?」
「私も大丈夫です」
「そう。それなら俺から連名で返信しておくよ」
「はい、ありがとうございます。準備する資料などはありますか?」

んー、そうだな、と航は宙に目をやって考える。

「まだ具体的なデザインの案や希望は聞いてないんだけど、こちらから提案出来るように参考資料を持って行きたい」
「かしこまりました。私の方でも、いくつかまとめておきます」
「分かった。先方に向かう前に、軽く打ち合わせしてもいい?」
「はい。月曜は9時からオフィスにいますので、いつでも声かけて頂ければ」
「ありがとう」

それでは、とお辞儀をしてから凛はデスクに戻っていった。
< 68 / 168 >

この作品をシェア

pagetop