君との恋のエトセトラ
「ほう、敢えて他社の物は参考にせずにね。分かりました。早速資料を拝見しましょう」

前回と同じく梶谷と梅田、航と凛でデザインを考えていく。

最初に意図を説明すると、梶谷は頷いて凛が差し出した資料を手に取った。
梅田も横から身を乗り出す。

「あ、これなんかいいですね。月灯りが照らす海の輝き。やっぱりキラキラは欲しいな」

梅田は、夜空に浮かぶ月の光が水面に輝く、海のデザイン画を手に取った。

「綺麗で思わず見とれちゃう。セレーネシリーズのラメ入りパウダーのイメージにも合うし、私はこういうイメージがいいと思います」

その言葉を聞きながら凛がじっとデザイン画を見ていると、ふいに梶谷が声をかけた。

「立花さんは?どういうイメージがいいの?」
「えっ、わたくしですか?」
「そう。この夜の海のデザイン、なんだかしっくりきてないみたいだね」
「あ、いえ、その…」

これがいいと言ってくれた梅田の手前、そんなふうに言われると焦ってしまう。
しかも自分が準備した参考デザインなのだ。

ためらっていると、梅田が凛を促した。

「立花さん。クライアントの顔色をうかがう必要なんてないわよ。そんなことしておだてられても、こちらはちっとも嬉しくない。一緒に本音をぶつけ合って、いいもの作っていきましょう」
「あ、はい!」

凛は思わず姿勢を正す。

「では、立花さんの考えは?」

梶谷に言われて凛は頷いた。

「はい。わたくしは、この写真に目を引かれました」

そう言って1枚のデザインを手に取る。
それは、女性の横顔を斜め後ろから捉えた写真だった。

どんな表情なのか分からない。
けれどまとっている雰囲気が大人びていて、思わず見とれる。
声をかけて振り向かせたいけど、そうさせないようなオーラもあった。

「セレーネシリーズは、月の女神のイメージです。夜に美しく現れる神秘的な女性。このメイク道具を使えば、きっと誰もがいつもと違う自分になれる、そう思わせてくれる商品です。ミステリアスで大人っぽく、それでいて月の輝きのような透明な美しさ。思わず言葉を失って目を奪われてしまう。そんな女性をイメージ出来ればと」

いかがでしょうか?と自信なさげに視線を上げると、梅田はじっと考え込んでから、うん、と頷いた。

「化粧品の広告って、トップ女優の笑顔にこれでもかってくらい修正をかけて、肌をもちもちツヤツヤに見せた広告が多いけど、私はこのセレーネシリーズにそんな広告はしたくないと思ってたの。だから敢えてイメージデザインでってお願いしたんだけど、なるほどね。月の輝きよりも、こっちの方が説得力あるわ。私がセレーネシリーズに込めた思いは、まさに今立花さんが話してくれた通りよ。梶谷さん、この案でやっていきませんか?」

口元に手をやって聞いていた梶谷は、少し間を置いてから大きく頷く。

「そうしましょう。あとは河合さんと立花さんに託します。良いデザインを楽しみにしていますよ」

はい!と二人でしっかりと頷いてみせた。
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