最強退鬼師の寵愛花嫁
取引をするためには手札が必要だ。
相手に要求を呑ませるために、相手に与えられるもの、はたまた脅しに使えるものが。
(……え、手札を手に入れるってどうすればいいのですか……?)
その考えに至って、琴理は困惑した。
当主夫人としての立ち居振る舞いは学んできたが、琴理が実践の場に対峙することはほとんど学んでいない。
(こ、これはまずいです……心護様の足を引っ張ってしまうかもしれません……)
詩に教えを乞うている現在だが、もっと実情を知ろう。
いつ、自分が戦いの場に出てもいいようにしておかないといけない。
――現当主夫人は、それをやってのけているのだから。
(わたしに退鬼の力はないです……だから当主の妻としての教育を受けてきました。退鬼師ではなく)
霊力のあるないは、生まれた時点で決まっている。
琴理は霊力がほぼなく、心護は強い。そして、愛理も強い。
修練で高めることは出来るが、ゼロを一にするのは難しい。
そのため琴理の家族は、幼い頃に見初められた琴理に対しては当主夫人に必要なことを学ばせて、退鬼師の修練は課さなかった。
(今からでも習いますか? 退鬼の法を。私の霊力はみえるだけでそれ以外は出来ない、退鬼の世界で言えばゼロに等しい……それを理由に、私を心護様の許嫁と認めない方もいるくらい……)
現当主夫人である琴歌が退鬼師としての実績も残しているため、同じように退鬼師として活躍のある者を心護の許嫁にと言う声に、琴理が直面したこともある。
その際は笑って受け流すことが最善の術だったが、今では心護が琴理を許嫁に望んでくれたと知っているので、そのときとは少し違った笑みを返せると思う。
(……それはそれで、心護様の情をいいように使っている感じがしてしまいます……)
――心護は琴理にそれを使えるようになってほしいと思っているのだが、琴理の心はまだその段階までいっていなかった。
上に立つ者として、情よりも事実を優先しなければいけない場面には必ずぶつかる。
家族だから助けたいとか、愛しているから救いたいとか、そういった感情にかられて事実と証拠をつぶしてしまうのは愚かなことだ。
情をいいように使い、操ることすら当主とその妻の器量なのだ。