愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 父らに気づかれないよう、そっと店を後にする。
 生ぬるい風を受けながら、足早にマンションへ向かった。その間中、父と義父の会話が頭の中をぐるぐると回っていた。

 私と千隼さんの結婚は、もしかして彼の職場での立場を考慮して結ばれたのだろうか。てっきり父親同士のつながりが理由だと考えていたが、そんな単純な話ではないのかもしれない。

 結婚適齢期の彼が独身でいるのは、義父の言っていたように問題のある人物だと思われてしまうのか。

 ベルギーへ渡ってしまえば、恋愛的な意味で異性と出会う機会はうんと減ってしまっただろう。
 どうにかそれまでに結婚しておきたいが、相手となり得る山科さんには秘書の方との話が持ち上がっていた。それを聞かされたら、千隼さんも引かざるを得なかったのかもしれない。

 そこに、以前から顔見知りの私がいた。年齢差も許容範囲な上に、父親同士の関係は良好だ。
 さらに私の仕事は家業の手伝いだったため、退職時期だってある程度の融通が利く。いきなりベルギーへ行くと言われても、私なら都合を合わせられた。

 矢野家は後ろ盾にはなれないかもしれないが、父を慕うかつての同僚は今でも紅葉亭に顔を出してくれる。店での交流を通して、千隼さんは彼らとの関係も深めていた。
 実父が大臣を務めている山科さんのような大きな力にはなれないが、父を介した関係は、千隼さんにとって少なからずプラスになっているだろう。
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