愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 不安を解消できないまま、翌朝を迎えた。昨夜は終始ぼんやりしていたせいで、またもや千隼さんを心配させてしまった。

「それじゃあ、また店でな」

 玄関先で見送る私の顔を、千隼さんが目を細めながらじっと見つめる。その視線は優しさと気遣いであふれていると感じてきたのに、今日は私の内心を探られているようにも感じて居心地が悪い。

「う、うん」

 彼は職場でいつも山科さんと顔を合せているはずなのに、ふたりの関係を疑わせるような素振りはいっさい見せない。
 隠すのがよほどうまいのか、それとも本当に関係を断ち切っているのか。千隼さんを疑いたくないのに、勝手な想像ばかりしてしまう。

「行ってくる」

 ふわりと私を抱きしめた後、千隼さんはまるで少しの未練もないかのように背を向けて玄関を出ていった。

 それからは、気を抜けば山科さんと千隼さんのことばかり考えていた。
 彼のために、別れるべきだろうか。そんな極論にまで至り、慌てて振り払う。

 私たちが結婚してすぐに別居となったのは、とくに隠しているわけではない。だから、彼の職場でも知られているだろう。
 ようやく一緒に暮らしはじめたというのに、一年も経たないうちに離婚したとなれば、逆に千隼さんの立場を悪くするかもしれない。原因がどちらにあるかに関係なく、少なからず彼に対する信用は揺らぎかねない。
 そんなふうに、少しでも自分にとって都合のよい言い訳を次々と考えてしまう。
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