愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
「はい、先輩。どうぞ」

 千隼さんたちの近くを通りかかったとき、山科さんの声が聞こえてきた。
 さりげなく伺えば、甲斐甲斐しくおかずを取り分けた彼女が、千隼さんに皿を差し出している。

「ああ、ありがとう」

 女性は彼女しかいないため、気を利かせて全員にそうしているようだ。
 千隼さんはそれに淡々と返しており、親密な様子は感じられないことにほっとする。

「山科、飲み過ぎじゃないか」

 しばらくした頃に漏れ聞こえてきた千隼さんの声に反応して、彼らのテーブルに視線を向ける。
 これまで目にしてきた山科さんの様子から、ずいぶんお酒に強い人だと捉えていた。
 けれど今夜は、話が盛り上がって羽目を外してしまったのかもしれない。
 頬を朱に染めた山科さんは、すっかり酔いが回ってしまったのだろうか。隣に座る千隼さんを支えにするように、わずかに体を持たれかけていた。

「山科、しっかりしろよ」

 櫛田さんらも窘めてはいるが、酔ってご機嫌になっているだろう彼女は「大丈夫よ」と笑顔でかわす。

 千隼さん自身に触れる彼女をなんとかどけさせていたが、しばらくすると再び同じように戻してしまう。

「悪い酔いしすぎだぞ。高辻さんに迷惑をかけるな」

 櫛田さんに正面からグラスを取り上げられても、彼女は意にも介さない。
 彼の方もなんとかしようとしているのは伝わってくるが、向かいの席からではそれ以上の手助けもしづらいようだ。
 あたしと目が合った櫛田さんが申し訳なさそうな表情をするから、なんだかいたたまれなくなった。
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