溺愛まじりのお見合い結婚~エリート外交官は最愛の年下妻を過保護に囲い込む~

不安な別居生活

 羽田空港に到着すると、タクシーに乗り込んでそのまま父の入院している病院へ直行した。

 窓の外には、気持ちの良い青空が広がっている。
 もう二週間もすれば、この辺りも梅雨入りをするのだろうか。
 束の間の陽気を楽しむように、通りかかった大きな公園には、子連れの親子が楽しそうに遊んでいた。
 
 父が事故に巻き込まれてから、すでに時間が経過している。すっかり落ち着きを取り戻しているのかもしれないが、実際に顔を見るまでは安心できないと気持ちが急いた。

 病院に到着して、受付で教えられた病室に向かう。
 たどり着いた部屋の前で立ち止まり、プレートを確認して深呼吸をした。

「お父さん?」

 父は大部屋に入っており、閉められたカーテン越しに小声で呼びかける。

「ん? 誰だ?」

 わずかにカーテンを開けて、中を覗く。どうやら父は、転寝をしていたようだ。

「小春だよ」

「は?」

 相当驚かせてしまったようで、父はぼんやりしていた目をパッと見開いた。
 そう言えば誰にも帰国を知らせていなかったかもしれないと、今さら気づく。

「こ、小春? なんでだ。ベルギーにいるはずじゃあ」

 呆然とつぶやく父にかまわず、ベッドサイドに椅子を引き寄せて座る。

「そうだったんだけどね。お父さんが事故に遭ったって聞いたら、いてもたってもいられなくて。それで千隼さんと相談して、私だけ帰国してきたの」

「だって、お前たちは新婚で……」

 まだ頭がはっきりしないのか、父は黙り込んでしまった。混乱させてしまったのは、さすがに申し訳ない。

「おじいちゃんだけでは、今後リハビリに通うのも大変じゃない。だから、しばらく私がサポートするって決めたの」

「いや、それはだいじょう……」

「大丈夫じゃないでしょ?」

 父の発言を遮るように口を挟む。
 祖父も父も、どんなに大変でも心配は無用だと言い張るだけだ。
 まして新婚早々の私に、弱音など吐けないだろう。帰国前に相談なんてしようものならば、全力で拒否してきたに違いない。
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