溺愛まじりのお見合い結婚~エリート外交官は最愛の年下妻を過保護に囲い込む~
「小春はどうしたい?」

 あらためて問われて、ゴクリと喉を鳴らした。

 瞼を閉じて、自身の心の内を見つめる。
 そうして再び千隼さんと視線を合わせたときには、彼の言葉を信じて覚悟を決めていた。

「私は、お父さんたちを助けに行きたい」

 迷いが完全になくなったわけではないが、目を逸らさず本心を伝える。そんな私を、千隼さんは隣からふわりと抱きしめくれた。

「教えてくれて、ありがとう」

 頬にトクトクと伝わる彼の鼓動に、緊張がほぐれていく。

「今、小春の力を必要としているのは、俺よりも正樹さんたちの方だ」

 抱きしめられたまま見上げれば、熱い視線とぶつかる。

「だから、小春は帰国するべきだ」

 最後の一歩が踏み出せない私の背を押すように、千隼さんが断言した。

「俺自身も、彼らに小春の力を貸してあげてほしいと願っている」

 彼だって義理の親子となった父を心配してくれているのだと、ようやく気づく。

「千隼さん。私、行ってくる。その、どれくらいで戻って来られるかはわからないし、もしかしたら長くかかってしまうかもしれないけど」

「ああ、わかってる。俺にかまわず、気のすむまで正樹さんたちの手助けをしてきて」

「ありがとう」

 彼の気遣いに感謝しながら、ぎゅっと抱きしめ返す。
 私の髪に、千隼さんが顔をうずめた。

「いっぱい連絡するから」

「ああ。必ず返すから、そうしてくれ」

 それから数日のうちに、私はベルギーを離れることになった。
< 28 / 154 >

この作品をシェア

pagetop