愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
* * *

 スイスでの勤務を終えて、四年ぶりに帰国した。
 数日はバタバタとしていたが、それも落ち着いた頃にようやく紅葉亭へ足を運ぶ。

「いらっしゃいませ」

 入口を開けると、あの頃と変わらない小春さんの溌剌とした声が聞こえてきた。
 視界に飛び込んでくるのも、きっとあのかわいらしい元気いっぱいな笑みなのだろうと、なんとなくそわそわしながら顔を上げる。

 そうして目にした小春さんに、戸惑いを隠せなかった。

 見かけない数年の間に、彼女の印象はすっかり違っていた。
 もちろん、背格好が大きく変わったわけではない。

 顔つきが少しシャープになっただろうか。明るさはそのままで、そこにたおやかさが加わったと言えばいいのか。
 彼女の醸す空気が記憶の中の姿よりもずいぶんと大人びており、不覚にもドキリとさせられた。

「おじ様から、お仕事で忙しくされていると聞きましたよ。お疲れさまです」

「フランスとスイスに、合わせて四年ほど行っていたんです」

 動揺を隠しながら、なんとか返す。

「それは、お疲れさまでした。ああそうだ。これ、内緒でどうぞ」

 お通しとは別に、そっと一皿差し出される。その優しい気遣いは以前と変わらず、妙にほっとした。

 けれど、彼女はもう人差し指を立てはしなった。代わりに、目を細めた大人びた笑みを浮かべる。
 媚びているわけでもないのに妙に艶めいており、再びドキリとさせられた。

「久しぶりに、美味しい和食が食べたくなって。それに、紅葉亭のアットホームな雰囲気が無性に懐かしくて」

 動揺をごまかすように、ここへ来た理由を語る。それを聞いた彼女は、うれしそうな顔をした。

「ありがとうございます!」
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