愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 それからは、以前よりも頻繁に紅葉亭へ通った。
 必然的に小春さんとの距離も近づき、お互いのプライベートな話をもするようになる。

「――それで大学まで行かせてもらったんですけど、やっぱり私はこのお店がなにより大事で。結局、紅葉亭に就職することになりました」

 どこか誇らしげに語る小春さんを、微笑ましく見つめた。
 彼女の発する言葉、口調、表情のすべてから、この店への愛を感じる。

「千隼さんは、国のために働いているんですよね。すごいなあ」

 彼女のまっすぐな賛辞がくすぐったい。
 そんなふうに褒められれば、悪い気はしなかった。

「父さんだって、昔は同じ仕事をしていたんだぞ」

「大将、焼きもちを焼くなって」

 すかさず口を挟んだ正樹さんに、俺の近くに座っていた常連客がヤジを飛ばす。
 それは決して下品ではなくて、なじみの人間だからこその気安いやりとりについ笑ってしまった。
 こんな雰囲気も、俺がこの店を気に入っているひとつだ。

 小春さんたち親子は本当に仲がよく、常連客を含めて和気あいあいとしている。
 客の彼女に対する気安い態度も、高校生の頃から働く姿を見ていたからこそのものだろう。まるで彼女は、みんなの娘のような存在だ。
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