拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 飛沫や接触による感染拡大に手指や口腔の洗浄が有効な事実は、データによって証明されているが、これがなかなか受け入れられずにいた。「この死の病がそんな手段で防げるのなら、そもそも蔓延していない」というのが、民衆の総意のようになってしまっているためだ。
 感染者への偏見は根強く、医療者も逃げ出す始末で、診療所も現在は治療とは名ばかり。〝死の館〟などという俗称がいい例で、実質的な隔離場所のようになってしまっていた。
 その他の衛生対策もなかなか徹底が進んでいない現状があり、これを打破するための現地入りだった。
 俺としてもこのまま王都に残り、激昂したジェニスによって無駄な権力争いに巻き込まれるのは本意でない。物理的な距離を取ることが、ジェニスとの衝突回避には有効だろう。
 叔父を騙すようで若干気は引けるが、そもそも仮に全権移譲が承認されたとして、その際俺の所在が必ずしも王城にある必要はないのだ。その時は、現地から指揮を執ればいいだけのこと。
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