孤独な少女は優しさに堕ちていく。
♢♢♢

「わぁ…、きれい…」

「うん、きれいだね」

目の前には小さな海が広がっていた。

「あの魚、なんかかわいくないですか?」

「うん、…かわいいね」

1つ目の水槽だというのに私は興奮しまくりだ。

水族館に行くのか怖いと思っていたことすら忘れてしまう。

「千景さん!11時からイルカショーがあるみたいです!!」

「ん?、本当だね。行きたい?」

「はい!」

さりげなく千景さんに手が私の手に触れた。

そしてゆっくりと私の手を包み込み、歩き出す。

千景さんの方を見上げたものの千景さんは特に何とも思っていなさそうな顔をしていた。

「あの、手、」

「乙葉ちゃんとはぐれたら困るから。俺も繋ぎたいしね。嫌だった?」

ブンブンと首を振る。

むしろ嬉しい。

千景さんに連れられるまま歩いているとイルカショーが行われる大きなプールにたどり着いた。

カッパは持ってきていないので、濡れる可能性がある、と注意書きされている椅子より1つ後ろの席に座る。

『皆さんこんにちは。イルカショーの開演です!今日、技を見せてくれるのは雌イルカの…』

明るいトレーナーのお姉さんの声によってイルカショーが始まった。

4頭のイルカが、飛んだり芸をしたり広いプールの中を縦横無尽に動き回る。

普通に注意書きされている椅子より後ろの椅子に座っている人も濡れている。

「かっこよかったですね!!」

「うん、そうだね。……ちょっとこれ着ててくれる?」

私が手渡されたのはついさっきまで千景さんが着ていたカーディガンだ。

「え?千景さん、寒いですよ?」

「うーん、でも乙葉ちゃんのそれを知らない男に見られたくないから」

千景さんが控えめに視線を送る先は私のブラウスだった。

ブラウスに目をやると、濡れて下着が透けてしまっていた。

「ぁっ…」

一瞬で顔が真っ赤になったのがわかった。

「ほら、早く」

千景さんからカーディガンを受け取って羽織る。

正直、大きくて、袖から手を出すのも一苦労だけど、何も着ないで歩き回るわけにはいかない。

「…これはこれでやばいかも、」

濡れてしまったブラウスを隠すことができた安堵でいっぱいだった私は、千景さんのそんなつぶやきを聞き逃していた。
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